SORA BLOG

1997年 神奈川県生まれ。幼少期から中学時代にかけ、毎週末フェラーリをはじめ高級車を扱うショールームの扉を叩いて回るなどクルマを追いかけ回す日々を送る。高校時代、友人と仏を旅したのを機に関心の目が世界へと広がる。大学入学後、20カ国以上を放浪。1年間スウェーデン・ストックホルムに滞在。/大のビートルズ好き

強大な権力に抗う香港 ①デモ参加者を追う中で見えてきた市民の強い決意と将来に対する危機感

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7月28日、成田空港第三ターミナルの出発ロビーに設置されたテレビを囲む人々は、神妙な面持ちでニュースを見つめていた。テレビのニュース番組ではCNNのリポーターが香港、元朗(Yuen Long)でのデモ隊と警察隊の衝突を生中継で刻々と伝えていた。

 

4月28日 13万人デモ 6月9日 100万人デモ 6月16日 200万人デモ

 

人口約700万人の香港で、大規模なデモが毎週のように行われている。一体今、何が香港で起きているのか。4日間の香港滞在中、デモを追い、現地の学生と街を歩いた。そうした中で見えてきた、香港の現状と市民の思いについて、学生の視点でお届けしたい。

 

なお、ここに記す情報は、主に現地の香港市民、そして友人から聞いたことを基にしているため、偏りや情報の誤りがある可能性があることをご了承いただきたい。

 

Contents

  • 1. 香港に行こうと思ったきっかけ
  • 2. 香港の自由を保障する一国二制度とは            
  • 3. 脅かされる自由
  • 4. 逃亡犯条例とは 市民が懸念していること
  • 5. 7月28日 デモに参加して見えた市民の強い思いと香港の悲しい現状
  • 6. デモ参加者に対し誤解してほしくない事 「彼らは決して暴徒ではない」

 

1. 香港に行こうと思ったきっかけ

 

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6月、香港に住む友人のフェイスブックのプロフィール写真が一斉に黒に染まった。それは、逃亡犯条例改正案に反対するデモ隊への警察の暴力的な強制排除に対する抗議の意思表示だった。香港の大規模デモを伝えるニュースは、6月世界を駆け巡った。日本でも、新聞やテレビでその光景は大きく取り上げられた。 

10代、20代の同世代の若者が路上に繰り出し、逮捕のリスクを抱えながらも、強大な権力に立ち向かう姿は私にとって衝撃的だった。香港に住む友人らが毎日のようにインスタグラムやフェイスブックに投稿する警察によるデモ参加者に対する暴力的鎮圧を捉えた映像や、抗議の自殺をした若者に関するニュースを見る中で、同世代として何か彼らの手助けをすることができないかと思ったのが香港へ飛び立とうと思ったきっかけだ。

 

 
また、日本のメディアがデモ隊と警察との衝突を伝えるニュースの中で、どこかデモに参加する若者らを「狂信的な過激派」に映りかねない一面的な報道をしている点が気になった。私自身、デモ隊が政府庁舎の入り口を破壊し、議会を占拠したニュースを見た時、正直、こうした暴力的なやり方には疑問を感じた。しかし、そこまでの行為に及ぶ背景には、何かやむおえない切迫した事情があったのではないかとも思った。そうした問題の本質について、現地の学生に直接聞いてみたいと思ったのも、今回の渡航を決意した理由の一つだった。
 
香港に住む友人に連絡を取り、現地での案内を依頼し、航空券を手配。28日深夜の便で成田空港を後にした。

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(友人から送られてきた、デモのスケジュール。)

 

2. 一国二制度とは

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(デモ前の集会で、イギリス国旗を掲げる参加者。) 

 

香港はかつて、イギリスの植民地だった。

 

150年にわたるイギリスの支配を経て、1997年香港は中国へと返還された。その際、イギリス政府と中国政府との返還協定交渉の中で、両政府が合意したのが「一国二制度」である。

 

その内容は、香港は中国の一部になるものの、中国政府は、今後50年間(2047年まで)は外交、国防分野以外に関して香港が高度な自治権を持つことを認め、香港市民が享受してきた表現の自由を含む社会経済制度を維持するというもの。つまりお互いに、経済社会システムを維持したまま、形としては一つの国になるということだ。

 

中国内でアクセスが制限されているフェイスブックをはじめとする欧米発のSNSを、香港で使用できるのは、「一国二制度」が香港基本法に定められおり、基本法によって言論の自由表現の自由が認められているためである。ちなみに、香港におけるフェイスブックの利用者数は世界一位(2013年時点)を誇り、毎月の利用者数は430万人と、人口の60.1%に達する。

 

 

3. 脅かされる自由

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(中国国内に設置されている監視カメラ。)

 

中国国内にはない自由を享受してきた香港だが、近年そうした自由を脅かす、中国政府による香港の自由への圧力が高まりを見せている。

例えば、 

2014年、親中派と対する民主派寄りの論調をとる日刊新聞「明報」の編集長が暴漢に襲われ、重体になる事件が発生。

2015年、中国本土で販売が禁止されている、中国共産党幹部に関するスキャンダルを掲載した書籍を販売する書店の店主が相次いで失踪。数ヶ月後中国政府に身柄を拘束されていたことが判明。

2018年、香港の外国人記者クラブ副会長を務める、英経済紙ファイナンシャルタイムズ紙の記者が、香港政府によってビザの更新を拒否される。

2019年、天安門事件を追悼する集会に出席しようとした元学生リーダーが、香港国際空港で入国を拒否される。

今回、これほど多くの市民がデモに参加している背景の一つには、近年、こうした目に見える形で強まる中国政府の香港への介入が、法案成立によってさらに露骨なものになりうる事に対する危機感がある。

 

4. 逃亡犯条例とは 市民が懸念していること

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(デモ集会で手渡されたプラカード。広東語で「ここに来た動機を忘れないで。私たちは、法案が廃止されるまで決して諦めない」と書かれている。)

 

香港の中国化が進む現状に危機感を多くの市民が抱きはじめていた中で、提出されたのが今回の「逃亡犯条例改正案」であった。

 

改正案が成立すれば、香港当局が中国本土で起きた事件に関与した容疑者を中国本土へ移送することが可能となる。そこで、多くの人々が懸念しているのは、中国政府が本土内で起きた事件の関与をでっち上げ、中国政府に都合の悪い人々が中国本土へ送還される恐れだ。

 

中国には司法の独立はなく、司法は共産党の影響下にある。2015年には、人権派弁護士が一斉検挙され、多くが国家政権転覆罪などで裁かれ、実刑判決を言い渡された。共産党を批判する者は皆、口を封じられるのが中国の実態である。

多くの香港人は、もしこの法案が可決すればこの先、デモをすることができなくなるかもしれない。デモをしただけで捕まり、中国へ送還されるかもしれないという危機感を抱いている。あれだけ多くの市民がデモに毎週、参加している背景には、これが声を上げる最後の機会なのかもしれないという危機感が香港市民の間で、共有されているからだ。

 

法改正の影響を受けるのは、香港人に限った話ではない。中国政府に目をつけられれば、外国人も送還の対象になる。香港はその経済の自由度から国際金融都市として名高く、日本企業を含む多くの企業が香港でビジネスを行なっている。つまり、私たち自身にとっても、特にビジネスマンにとって、この法案改正を巡る動きは、無関係とは言えない問題なのだ。

 

4. デモに参加して見えた市民の強い思いと香港の悲しい現状

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7月28日、日曜日。遮打花園(Charter Garden)から中山記念公園(Sun Yat Sen Memorial Park)間で予定されていたデモへ向かった。

 

現地に着くと、デモ開始前なのにも関わらず、公園内はものすごい数の人で埋め尽くされており、入りきれなかった人々が周囲の道路に溢れかえっているほどであった。当日は、気温30度を超える蒸し暑さで、多くの人が額に汗を浮かべていた。一見、無秩序に見える現場だが、緊急時の通路が確保されていたり、有志の救援隊のスペースが確保されていたりと非常に統制が取れている印象を受けた。

 

公園内を歩いていて驚くのが参加者の年齢層である。中学生、高校生や大学生を中心に参加者の7割が20代前後の若者で、その他の3割が小さな子供の手を引いた家族連れやおじいさん、おばあさんといったかんじで非常に年齢層の幅が広いことが印象的だった。若者を中心とした幅広い世代で同様の危機感が共有されていることを、強く感じさせられた。

 

現在行われている抗議運動で、参加者が政府に要求しているのは以下の5つである。

 

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警察が当初、認可していたのは公園内での抗議集会のみであったが、一部の参加者が道路を歩き出し、それに多くの参加者が続く形で、デモ行進が始まった。デモに参加していた方の話によると、警察もこうした自体は予測しており、デモ行進を事実上黙認していたという。デモ参加者の多くは、デモのシンボルカラーである黒のTシャツを着ていたが、21日起きた襲撃事件の影響か、黒以外のシャツを着る参加者も少なくなかった。

 

21日起きた襲撃事件に関しては、こちらに分かりやすくまとめられている。私も、友人から「黒のシャツは襲撃される恐れがあるから、着ない方がいい」と言われた。

 

 

 

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途切れることのない参加者の波。デモコースの途中にあるコンビニは、飲料水を買い求める参加者で混みあっていた。

 

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デモ行進は、銅鑼灣駅周辺でストップ。その後、約3キロに渡る幹線道路の占拠が始まった。

 

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(デモ隊が占拠した区間) 

 

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デモを見ていると、参加者の多くが傘をさしている点が目にとまる。傘は、警察隊からのペッパースプレーや催涙弾から身を防ぐのが主な目的だが、顔を隠し、警察の検挙から逃れるという目的もある。

 

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夜21時をまわった頃、警察がデモ隊の強制排除に乗り出した。警察は、無差別にデモ隊に対し多数の催涙弾、ゴム弾を発射。多数の怪我人がでた。同日、現場で使われていた催涙弾は、使用期限が切れたものと後に判明。香港市民の身の安全が考慮されているとは言い難い事実である。また、デモ参加者以外の通りがかりの市民が警察による暴行を受けるという事もあった。

 

 

(7月28日 警察によるデモ隊排除の様子。)

 

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(政府機関の壁に書かれた「警」と「黒」で作られた造語。警察の暴力的な市民に対する対応や、政府の側に常に立ち、ギャングとも共謀する警察に対する不信感が滲み出てている。)

 

デモ後の駅には、デモ参加者に、電車のシングルチケット(日本のSuicaにあたるオクトパスカードを使うと足取りが記録されるため、デモ参加者の多くはその使用を避けている。)や黒以外の色のTシャツを配る市民の姿があった。

 

30日、香港警察は28日のデモで44人を「暴動の罪」で起訴したと発表した。6月から続くデモで、参加者が「暴動の罪」に問われるのはこれが初めてだという。香港政府は、強い姿勢でデモに対処する事で、市民のデモ参加の動きを抑え込もうとしている。ちなみに44人の中で、最年少は16歳の少女だった。彼らには、最大で禁錮10年が言い渡される可能性がある。

 

 

7. デモ参加者に対して誤解してほしくない事 彼らは決して暴徒ではない

 

過激な行動を取らざるを得ない状況

地下鉄の運行を妨害したり、幹線道路を占拠したりするなどのニュースを見ると、一見参加者が暴徒化した人々に映るかもしれない。

 

しかし、参加者の多くは、彼らの行動が多くの人に迷惑をかけることに繋がる事をもちろん理解している。多くの市民が、今考えうる限りの行動で、政府に対し声を上げなければ、香港の自由が失われてしまうという危機感を本気で抱いている。デモに参加すれば、逮捕され刑務所に送られるかもしれない。逮捕されれば大学を退学させられるかもしれない。そうしたリスクを冒してまで、デモに参加する原動力にはそうした強い危機感がある。

 

30日に行われた地下鉄の運行妨害を意図した抗議活動を伝える日本のメディアは、若者たちがそうした行動に出た背景を伝えるというよりは、抗議活動によって引き起こされた交通機関の混乱に焦点を当てているように見える一面的な報道が多かったように思える。このブログを通し、市民の自由を守るための強い決意と思いを少しでも理解していただくきっかけとなれば幸いです。これこそが、私にできる香港の友人への少しでもの、支援である。

  

あるデモに参加した女性は口にしていた。

「 これは、私たちの子供のため。自由のない社会を彼らに遺したくない。」

 

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NHKの地下鉄デモを伝えるニュース。一部メディアは、「迷惑?」「迷惑だよ」と答えるインタビューのみを流していた。こうした市民の声こそ、問題の本質を映すものであり、メディアが報道するべき事であると思う。)

 

 

(地下鉄妨害を止め、駅を後にする参加者を見送る通勤客。)